第9回女性と医師の語る会

 

増え続ける糖尿病

~あなたの家族は大丈夫?~

大阪府内科医会会長 福田 正博





糖尿病とは「高血糖」病

 本日は糖尿病とはどういう病気か,なぜ増えてきたか,それを予防するにはどうしたらいいかということをお話しさせていただきます.

 昨年11月14日に通天閣がブルーにライトアップされましたが,ご存じでしょうか.これは世界糖尿病デーの記念行事として行われました.世界糖尿病デーは国連総会で一昨年に決議され,病気に関して国連が国連総会で決議したのは,エイズについで糖尿病が二つ目です.日本で糖尿病が増えているということは皆さんご存じだと思いますが,じつは日本だけではなくて,南北アメリカ,アフリカ,ヨーロッパ,中東,アジアと,世界中で増えています.そして2025年には,世界全体で3億2400万人が糖尿病になるだろうと予測されています.現在でも年間300万人が糖尿病で亡くなっており,それはエイズによる死亡を上回っています.特にアジアでの増加が顕著です.この大半は中国での増加です.人口が13億人ですから,1%増えても日本人で10%増えるのと同じなので,とにかく大変なことになります.これを何とか阻止しようということで動き出しました.

 さて,この糖尿病は,そのまま読みかえると「尿に糖がおりる病気」ということで,何かちょっとしみったれた病名ですね.しかし糖尿病の実体は尿とはあまり関係なく,高血糖症候群です.要するに血糖値が上がる病気です.尿に糖がおりるのは結果であって原因ではありません.高血糖症候群は英語でいうとハイパー・グルコース・シンドローム(Hyper Glucose Syndrome)となり,これだと少し聞こえもよろしいですね.「私,糖尿病ですねん」というよりも,「俺は,ハイパー・グルコース・シンドロームなんだ」といったほうが,いきおいがあります(笑).

 じつは血糖値を測るのがむずかしくて,可能になったのはここ100年ぐらいです.一方尿が甘くなるということは2000年も前からわかっていました.そういうことで糖尿病という名前がつきました.くり返しますが,糖尿病とは血糖値が高くなる,血液中にぶどう糖が過剰になっている状態です.

 血糖というのは,体の大切なエネルギー源です.糖がないとエンジンが動きません.人間の体を動かすためには血糖が必要ですから血糖値が下がってしまうと人間は動けなくなってしまいます.その血糖値がなぜ上がるのでしょうか?体が血糖を利用するためには,膵臓から出るインスリンというホルモンが必要なのです.これがないと,いくら血液の中に糖があっても,肝心の筋肉や細胞でエネルギーとして燃やすことができないのです.インスリンが不足すると筋肉細胞へ糖を取り込めなくなってしまい,その結果,血液中に糖があふれてきて血糖値が上がります.そのうち尿中に排泄されて体の外に捨てているという状態になり,それがいわゆる高血糖状態です.糖尿病の本体はインスリンが不足しているということです.

重要なホルモン“インスリン”

 このインスリンが体の中から完全にない状態,ゼロになってしまったら.血糖がまったく利用できなくなり,昏睡を起こして死にいたるという恐ろしい結末となります.1921年にこのインスリンが発見され,それが近代糖尿病治療の夜明けですが,それ以前は,糖尿病というのは死の病でもあったわけです.ちなみに,インスリンを発見したバンチング博士はノーベル賞を受賞しています.

 また,インスリン発見のわずか1年後,インスリン注射が1型(インスリンがまったく出なくなる子供に多いタイプ)糖尿病の治療に使われました.その子供さんはもう亡くなる寸前のところで,インスリン発見前であればそのまま死んでしまっていたでしょう.インスリン注射をすることによって,筋肉細胞などが糖を取り込んでエネルギーとして再び燃やすことができ3ヵ月後には元気になりました.このようにインスリンの発見が非常にたくさんの方の命を救いました.

 しかしこれですべて解決できたわけではありません.インスリンが完全欠乏したら即命にかかわります.一方,インスリンが不足している状態ではすぐに命の危険はありませんが慢性的な高血糖が続きます.10年から20年慢性的な高血糖が続くと,ゆっくりと血管や腎臓,目といった臓器が障害され,やがて自覚症状が出現したときにはすでに手おくれという状態になります.

 たとえば最終的には網膜症で失明します.いま病気で目が見えなくなる人の一番の理由は緑内障です.糖尿病性の網膜症で失明するのは2~3年前までは一番でしたが,幸いなことに糖尿病の治療が進んで二番になりました.一方尿毒症で透析をされる方は残念ながらいまだに糖尿病性腎症が一番で,年間1万人以上の方が透析になっています.それから壊疽,足の指が腐り足を切断しないといけません.これが今増えています.そして脳梗塞や心筋梗塞,これらは突然発症したようにみえますが,じつはそれまでに10年〜20年血糖値が高い期間があるのです.

 糖尿病はどうやって診断するのでしょう.まず朝一番空腹時の血糖値をはかり110mg/dℓまでなら一応正常範囲です.126mg/dℓならもうそれだけで糖尿病です.110〜126mg/dℓの間は境界型,予備軍です.もう一つ,空腹時の血糖値だけではなく,随時血糖といって食後の血糖値が200mg/dℓを超えても,もうそれだけで糖尿病です.だから,腹ぺこのときに血糖値が100mg/dℓであっても,ごはんを食べた後に血糖値が200mg/dℓなら糖尿病です.

 この126や200mg/dℓは,なぜ数字を決めているかというと,これ以上の数値の人を10年20年みていると,糖尿病の合併症が出てきます.ですから,それ以上は糖尿病としてちゃんと治療しましょうということになりました.そういうことで,血糖値が高いのがとにかく糖尿病であり,その原因はインスリンが不足しているということです.

なぜ糖尿病が増えてきたか

 では,なぜ糖尿病が増えてきたかということです.これは今から10万年~4000年前の話ですが,その時代はいつも腹ぺこでした.だから血糖値はあまり上がりません.血糖値は上がるほうがいいので,血糖値の上がりやすい人,そして一回食べたら脂肪としてエネルギーをためやすい人,そういう人がこの時代は生き残っていました.4000年ぐらい前になると,糖尿病が出てきはじめます.このころのエジプトのパピルスに糖尿病の記載が現れました.でも当時は王侯貴族の病気でした.

 それが300年ほど前に,欧米では産業革命が起こり中産階級が出現して,生活が豊かになり,肉食,乳製品などを多く食べ出しました.このような生活はインスリンを多く必要とします.その結果インスリンを出す能力の高い人,膵臓の強い人が生き残ります.

 一方そのころ日本は江戸時代で,平和が続き,「武士は食わねど高ようじ」という時代です.日本人は米魚中心の食事でインスリンはあまり必要がなく,その結果だんだん膵臓が弱くなってきます.それが第2次世界大戦後,生活が急速に豊かになり,日本の糖尿病人口は35倍に増えました.現在日本人の40歳以上の3人に1人は糖尿病の予備軍です.

 さて,あなたの糖尿病の危険度を調べてみましょう.①家族,血縁者に糖尿病があると3点.②20歳代前半より体重が増えている人は2点.③血のつながった家族に肥満や脳卒中や心臓病をした人がいたら1点.④甘いものや脂肪を好んで食べるなら1点.⑤車が足代わり,運動不足の人は1点.⑥ストレスが多い,いつもいらいらしていると1点.⑦お酒をよく飲む人は1点です.

 3点以下はまずまず安全です.だいたいの人は4~5点で要注意なので,日常生活を見直しましょう.6点以上の人は糖尿病の体質をかなりもっていますし,今の生活習慣も悪いということになります.日常の生活を再点検して,かかりつけの先生に定期的に血糖値をはかってもらったほうがいいでしょう.

 血糖値が上がる原因,その程度は本当にさまざまです.100人糖尿病の方がいたら,その原因は100通りあると思ってください.運動不足,食べ過ぎ,アルコールが主な原因となっている方,遺伝的な素因による方もいます.一概に「あの人は糖尿病をこの方法で治したから,私もそれでいけるわ」というわけにはいきません.その人その人に合った治療をしていかないといけません.

 糖尿病は大きく2つに分かれます.1型糖尿病と2型糖尿病です.日本人の95%は2型糖尿病,いわゆる生活習慣病の糖尿病です.一方1型というのは生活習慣や肥満には関係なく,完全にインスリンが欠乏してしまうタイプで,数は少ないけれど小さいお子さんや若い人に多いタイプです.じつは高齢者にもときどき起こります.急激にインスリンが出なくなり,激やせをして,血糖値が500~600mg/dℓとなり,悪くすると昏睡を起こすという糖尿病です.この方たちは,もうインスリン治療が生きるために不可欠です.

 2型糖尿病というのは肥満,生活習慣と密接に関係して,インスリンの効きが悪いとか,分泌が若干悪いとか,少しインスリン作用が低下している状態で,大人に多く,ゆっくりと進行します.今増加が問題になっているのはこのタイプです.以前は,成人型糖尿病といっていました.ところが,子供の肥満にともない2型糖尿病が増加しています.最近は小学校でも尿糖検査で糖尿病のスクリーニングをするようになりました.

 もう一つ,すこし特殊なタイプとして,夏場に注意しないといけないのが,清涼飲料水ケトーシス,ペットボトル症候群ともいいます.男子の中高校生に多いタイプで,急激に高血糖となり昏睡を起こします.血糖値が800や1000mg/dℓという値になってしまいます.病気になる1週間前から,1日平均2ℓ以上のコーラやジュースを飲んでいたと報告されています.それらのブドウ糖濃度は10%なので,1日200~230gの砂糖をかじっているのと一緒です.さらにスポーツで発汗後,脱水傾向にあるところに大量に飲むので急激に血糖値が上がってしまうわけです.コーラやジュースをお子さんやお孫さんにあまり飲まさないようにしてください.

生活習慣で予防を

 糖尿病を予防する生活習慣とはどんなものでしょうか?基本的には膵臓にやさしい生活ということになります.まず適切な食生活,基本的にはこれです.摂取エネルギーと消費,運動のバランスがちゃんととれていることが大切です.

 通常,1日に消費するエネルギーの内訳をみると,安静時にも必要なエネルギーがまず70%です.これはだいたい年齢で決まってきます.それに,食後に起こるエネルギー燃焼,これが約10%.残りの20%がいわゆる生活で動いたり運動するというエネルギーです.私たちが頑張れるのは運動の部分を増やすことだけです.

 日本人の必要なエネルギーをみると,20歳代がピークで30,40,50,60,70歳と徐々に減少していきます.女性の場合,20歳の約1500kcalがピークです.一方,平成15年の実際の食事摂取カロリーを調査したデータでは,年齢とともに増加しています.50歳ぐらいからやっと減少に転じます.だいたい30~40歳を境に「同じ運動量で同じ食事量なのに,なんで太ってくるのだろう.不思議?」となってきます.じつは基礎代謝量が減少しているわけですから,年齢に合わせて食事量を減らすことが第一で,そして運動量を増やすようにしないといけません.何もしなかったら確実に体重が増加してしまいます.特に50歳代の女性はかなり実際と必要量とに差があります.

 では,どのぐらいの食事量が適切なのか?というと,標準体重に25 kcalを掛けた量が目安です.標準体重というのは「身長(m)×身長(m)×22」です.あまりむずかしいことをいわなくても,だいたい1500~1600kcalです.そうすると1食あたり600~650kcalぐらいです.

 さて,あとは外食の話をします.豚カツ定食は900 kcalもあります.やはり高カロリーです.それに対してハンバーガーはどうでしょうか.カロリーを比較すると,ほぼ同じです.軽食ですませたというわけでは決してありません.これにフライドポテトをつけたら,Lサイズは529 kcal,合計なんと1400 kcalで,1日分のエネルギーを超えてしまいます.また,ドーナツも要注意で,油で揚げているので高カロリーです.ドーナツ2個なら600 kcal,これにコーラをつけたら700 kcalとなり,主食と変わりません.こういうことは知っておいていただきたいと思います.子供の糖尿病が今増えているわけですから,若いときからしっかり食育をしないといけません.

 厚生労働省が出している「食事バランスガイド」についてお話しします.イラストでコマの形になっていますが,一番上にあるのは主食です.ご飯,パン,うどんというでん粉類があって,そのつぎの段に副菜,すなわち野菜です.その下に卵,肉,魚の主菜類が並びます.一番下に乳製品と果物です.こういう形で,バランスよくコマが回るようにとりましょうということです.

 「私,ご飯は減らします」や,「ご飯を半分にしました.でもそのかわりおかずを一品増やしています」という人がいますが,おかずというのは高カロリーなので,ご飯を減らすぐらいならおかずを減らしてもらったほうがいいです.

食事で気をつけること

 食事に関する注意点を述べますと,まず30回以上ゆっくりよく噛んで食べるということです.噛むということで脳にある満腹中枢を刺激するホルモンが出てきます.でもそのホルモンが出てくるのに少し時間がかかります.そのホルモンが出てくるまでに食べてしまうといくらでも食べられます.ですから,食事中はよく噛んで,ときどきハシを置きながらゆっくり食べていただくと同じものを食べても満腹感が出ます.早食いはよくありません.つぎに一口だけ残す習慣をつけること.確かにもったいないですが,決して家族の残した分までは食べないようにしてください.

 朝食,昼食はしっかり食べ,夕食は軽めにします.交感神経という,脂肪を燃焼させてくれる神経システムが夜になると休むので,朝昼のほうが燃えやすいのです.そして,夕食は寝る3時間前に済ませます.食べる場所を決めましょう.居間にもキッチンにもお菓子が置いてあるというのはよくありません.食べ物はみえるところにできるだけ置かないようにすることが大切です.こういうちょっとした気づかいの積み重ねで,カロリーを減らしていくことができます.

 おもしろい実験があります.同じ食事をよく噛んで食べた場合と,ミキサーにかけて液状にしてチューブで流し込んだ場合と比較してみると,同じカロリーなのにチューブで流し込んだほうがエネルギー効率が低い.しっかり噛むことは大切です.そのためにも歯をしっかり強くしておかないといけません.

 おいしく食べることも大切です.同じカロリーでおいしい食事とまずい食事を比較したら,おいしいものを食べたときのほうが食後に燃焼するエネルギー効率が高いといいます.だから,おいしいものは食べてください.ただ量とバランスを考えてくださいということです.

 果物にも要注意です.果物の果糖は確かに血糖値をそんなに上げないのですが,中性脂肪が上がります.もう一つ,甘いものでなくても間食・夜食はしないように.まんじゅうもせんべいも一緒です.どちらも消化されれば全部ブドウ糖になるわけですから,甘くなくてもおかき類なども血糖は上がります.

 食事のときは,まず野菜を先に食べて,それから主食,副食,主菜の順で食べましょう.野菜は毎日300 gとってください.揚げ物メニューが好きな方はフライやカツは週に一度にしておきましょう.塩分は控えめに,血圧の低い人でも,塩分が多いと食欲を亢進します.

 もう一つ,健康によさそうな食品にも要注意です.いわゆる健康食品を含めて,あまり頼り過ぎないことが大切です.健康にいいオリーブオイルのタマネギサラダ,ご飯には健康にいい黒ゴマをふる,あげだし豆腐とDHAの多いサバのみそ煮のメニュー,デザートはカスピ海ヨーグルトです.このメニューで1000 kcalになります.健康にいいものをたくさん食べるとかえって健康に悪いということです.健康食品やサプリメントは,いわば生活にぴりっと彩りをつけるスパイスです.スパイスを上手に使うとおいしいですが,かけすぎるとまずくなります.

 飲み物についても要注意です.野菜ジュースに気をつけてください.特に最近のおいしい野菜ジュースは,リンゴなど糖分がいっぱい入っていることがあります.裏にはちゃんとカロリーの表示があるので,確認して買ってください.

 もう一つ,最近「カロリーオフ」というのがあります.「糖質ゼロ」「カロリーゼロ」とよく宣伝しています.本当でしょうか.カロリーオフというのは,じつは100 ccあたり20 kcal以下ならそういっていいのです.ということは,だいたい200 mlの瓶でブドウ糖が10 g以下であればカロリーオフとなります.だから,カロリーオフだからとてもヘルシー,ということでもないのです.ノンカロリーでも200 mlの瓶なら10 kcalなのでブドウ糖2 gが入っています.決してカロリーゼロではないということです.こういう表示にも惑わされないようにしないといけません.

運動をする

 最後に運動です.世の中で一番運動不足なのは宇宙飛行士でしょうという話があります.宇宙は無重力ですから本当に力が要りません.少し昔,長期間宇宙に行った宇宙飛行士が地上に帰ってきたら,自分の力で立てないぐらい筋肉が落ちてしまっていたということがあります.もちろん現在は宇宙ステーションではちゃんと運動するプログラムがあり大丈夫です.

 運動の効果はいろいろありますが,まず犬と散歩する習慣のある人は長生きするというおもしろいデータもあります.これはアメリカでちゃんと調べた方がいます.

 では,どんな運動をどれだけしたらいいのでしょうか.よく「通勤に余分に歩くだけでも効果ないの?」「週1回だけじゃだめ?」といわれますし,「もう,今から始めても遅いのでは?」といわれる方もあります.さてどうかといいますと,私の実例を紹介しましょう.私は1年前に駅から約1500歩ぐらいのところに住んでいました.そこから引っ越して駅から遠くなり,途中は山になっているのでアップダウンが結構激しい通勤となりました.今までの倍以上歩くことになりました.往復で通勤時間が15分から40分に増えました.1年後体重は4 kg減りました.以前は腹囲は85 cm,メタボ寸前,というところまで行ったのですが,今は82 cmとなりました.ほかの生活は変わっていませんが,歩く通勤距離が倍に伸びただけでやはり1年間でちゃんと4 kg減るのです.朝余分に一駅歩くというのも非常にいいと思います.

 あと週に一度の運動は効果があるかという質問ですが,これもデータがあります.1週間あたりの運動頻度と糖尿病のなりやすさを調べたところ,全然運動をしない人を1とした場合,週3回以上運動をする人は糖尿病になりにくく,その頻度は半分であると報告があります.1~2回だと効果は3回よりは薄いけれども,効果はあるようです.だから何もしないよりはずっとましだと思います.たとえば休日だけよく運動する人も調べていますが,日曜日に家でずっと寝たままの人が糖尿病になる危険を1とした場合に,日曜日を活動的にすごされている方は糖尿病になる率が半分であったということです.

 また,今から運動を始めて遅くはないかという質問です.ある調査があります.まず運動習慣の有無を聞き,4年後にも同じ質問をして,その後10年ぐらい経過を観察し,糖尿病になったかならなかったかを調査しました.まず調査開始時に運動をせず,4年後の中間調査のときにも運動していない方の糖尿病になる率を1としたら,調査開始時にも運動をしていて,4年後にもちゃんとしていた人は60%ぐらいということでした.運動をしている人は糖尿病になりにくいということは当たり前の話です.

 おもしろいのは,調査開始時は運動をしていなかったが,4年後に聞いたら「いや,今はしてますよ」という方をそのままずっと10年みていると,糖尿病になる人が少なかったということです.だから今日から運動するようにしましょう.明日からじゃなくて今日からです.「明日から」というと,多分明日になったらまた「明日から」ということになってしまいますから….

 それでは,どういう運動をするかということをお話しましょう.平成20年4月から特定健診,特定保健指導が始まります.40~74歳までは市民健診の代わりにメタボリックシンドロームをチェックする健診が始まります.その際に運動指導の目安としてメッツ(Mets)という単位が使われることになります.1 Metsとは,ごろんと横になって本を読んでいても消費するエネルギーです.1 Metsの運動を1時間したら1エクササイズ(Ex)といいます.健康づくりに必要なのは週23 Exです.そのうち活発な身体活動である3 Mets以上の活動が対象になり,そのうちの4 Exは特に活発な運動をしてもらう必要があります.

 1~3Metsの運動というのは立っているだけ,食べている,縫い物をしている,炊事,入浴,本を読んでいるなどで,これらは運動としてカウントしません.カウントするのは買い物3 Mets以上,1時間歩いて買い物をしたら3 Ex,20分歩いて買い物をしたら1 Exということになります.また床掃除など昔はゾーキンがけでかなり体力を使っていましたが,今はサッと掃除機でOKなのであまり運動にはなりません.また洗車,片づけ,このあたりの作業もだいたい20分で1 Exです.あと自転車もアップダウンがあるとOK,階段の昇降は6 Exです.雪かきも6 Exということでかなり運動になります.こういう生活活動を含めて週23 Exを目標とします.

 階段の昇降ですが,エレベーターを使わずに階段を降りるのもいいのですが,下りは上るより1.5倍ひざに負担がかかるので,ひざの悪い方は上がりは階段を使って下りはエスカレーターやエレベーターを使うようにしてください.ひざが悪くなると運動ができませんので注意してください.

 身体運動について述べます.運動は速歩(早歩き)が4 Mets.軽いジョギングなら6 Metsです.6 Metsだから10分やればそれで1 Exです.エアロビクス,ランニング,水泳もOKです.水中歩行は水の抵抗があるのでジョギング並のエネルギー消費になります.ちなみに子供さんと遊ぶのも3 Metsあるので,お孫さんと遊ぶのも運動だと考えてください.ただ,お孫さんと一緒にテレビゲームをしていたのでは意味がありません.

 そういう適度な食事と運動の効果がどれだけあるかというと,CTで撮った内臓脂肪を測定してみると,適度な食事と適度な運動を2週間ほどがんばってみると,体重はあまり変化せず,皮下脂肪は減りませんが,内臓脂肪は20%も減るというデータがあります.内臓脂肪というのはインスリンの働きを邪魔するいろいろなホルモンを出す元凶ですが,その内臓脂肪は減りやすいともいえます.そのためにはウォーキングなどが有効です.

 そしてストレッチ体操も大切です.ストレッチで筋肉の伸ばしを毎日5分していただくのが望ましいですが,あまり無理をしないように.顔を真っ赤にしてやるようなストレッチはよくありません.筋肉を痛めたり,肉離れをしたりします.弾みをつけずにゆっくり伸ばし,呼吸は止めないような程度がよいでしょう.「痛い」と「気持ちいい」の間,こういうのを「イタキモ」といいますが,イタキモの位置でしばらく保つ,それが筋肉を痛めないコツです.

 運動する前には必ずメディカルチェックを受けるようにしてください.不用意な,急激な運動は事故のもとです.去年8月17日の新聞に「脱メタボの突然死」という報道がありました.ご存知の方も多いと思います.「メタボ侍を切る」ということで,腹囲を10 cm減らそうとがんばっていたところ,朝ジョギングに行ったら帰ってこなくて,路上で倒れているのを発見され,すでに亡くなっていたということでした.メタボもそうですが,糖尿病の予備軍,症状にあらわれない動脈硬化などがすでに起こっている可能性があります.そういう方がむやみに運動すると,かえって心筋梗塞―この方はそうではないかと思われますが―などが起こるリスクがあります.ですから,運動する前には,かかりつけの先生に相談してください.

 安静時の心電図だけではなかなか細かいところまでわからないのですが,少なくとも安静時の心電図で異状が出ているようではドクターストップです.ちゃんとメディカルチェックをしてからゆっくりと始めます.「今日話を聞いたから,それじゃあ」といって,今から帰りにジョギングで梅田まで帰るとか,そういうことはしないようにしましょう.

「糖尿病養生訓」

 最後に,「糖尿病養生訓」を紹介します.1番目は目標をよくばらない.1ヵ月で3 kg落とそうなどよくばらないで,だいたい1ヵ月に0.5 kg減量でも,継続したら1年間で6 kg減量できるわけですから,1~2ヵ月でどうこうしようと思わないことです.2番目はおはしを置き,ゆっくりおいしいものを味わいながら食べる.できれば一口30回噛むようにしましょう.3番目は,夕食は寝る3時間前に済ませて夜食はしないように.4番目は,甘くなくても間食と果物に注意する.5番目は,まずは1日だいたい1万歩歩く.1万歩歩くと6 km位で,エネルギーは約200 kcalになり,だいたい3 Metsの運動です.1時間で3 Exの運動量,まずまずの運動です.それをできたら週に3回以上する,できれば食後がいいでしょう.6番目,冬の早朝などに歩きに出るということは,体がまだ起きておらず,筋肉や関節を痛めたり,心筋梗塞などが起こる可能性があります.冬場は暖かい時間帯のお昼の食後あたりが一番よいかと思います.最後7番目は,先ほどいいましたが,健康によいという食品に頼り過ぎない.自分の目で確かめることです.

 われわれは今ここに注目して,先般から機能性食品について実際有用であるのかどうか,安全なのかというのを皆さんと一緒に調査をしています.ぜひかかりつけの先生のところで,ためしてみようと思う食品があれば,お手をあげていただき調査に参加していただいたらと思います.

 最後に,「予防に王道なし」です.継続は力なりということで,短期間に何とかしようということを考えず地道にやっていただくことです.また,糖尿病というのはある程度体質的なものが非常に強いので,もしあなたが糖尿病またはその予備軍であればご自分の息子,娘,孫もその体質を受け継いでいる可能性が高いわけです.自分だけが糖尿病食を食べ,家族は脂っこいものをたくさん食べているというような疎外されたような寂しい雰囲気というのはよくありません.子供さんの将来のために家族全員でヘルシーな食事をとっていただいて,休みの日には適度な運動をしていただく.それが家族全体が病気にならない,生活習慣病にならない一つの秘訣です.1人でやるのではなくてみんなでやるということが大切ではないかと思います.


 ご清聴ありがとうございました.

 

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