三府県合同内科医会学術講演会 糖尿病をテーマに開催

 

 平成20年度中間法人大阪府内科医会定時総会の記念講演会は奈良県、和歌山県を含めた三府県内科医会合同で開催され、684名の参加者という記録的なものとなった。
 講演は世界的な深刻な問題になっている糖尿病をテーマに、この日、大阪府内科医会会長に就任したばかりの福田正弘先生の「診療所における足チェックシートの活用」、弘前大学医学部神経内科馬場正之臨床教授の「糖尿病性神経障害−間違いのない診断をするために−」、富山大学附属病院の小林正病院長の「生活習慣病・糖尿病の合併症に向けての戦略研究−
DOIT2の結果を踏まえて」の3題が行われた。

 

診療所における足チェックシートの活用
大阪府内科医会 会長 福田 正博

 

 糖尿病は先進国、開発途上国を問わず世界中で増加しており、国連総会で世界糖尿病デーが決議されるほど、その対策が問題となっている。本邦でも糖尿病患者数の増加に歯止めがかからず、国を挙げてその対策に積極的に取り組む必要があると平成17年2月に日本医師会、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会の三者で「日本糖尿病対策推進会議を設立し、糖尿病対策のより一層の推進を図ることとなった。

 その活動として「糖尿病治療のエッセンス」の発行や各地域でのかかりつけ医のための糖尿病診療に関する研修会などが開催されているが、そのひとつに糖尿病合併症の早期発見のための足チェックシートの作成がある。

 本邦では単に糖尿病患者数の増加だけでなく、ライフスタイルの変化に伴い、糖尿病に肥満、脂質異常などの代謝障害を合併するケースが増え、糖尿病合併症の中でも細小血管障害以上に脳・心血管障害が大きな問題になっているが、さらに深刻になりつつあるのが末梢動脈硬化性疾患と神経障害などに起因するDiabetic Foot(糖尿病足)の増加である。その予防には、まずは患者の素足を診るということが大切であるが、日常の診療で常に診るということは必ずしも容易ではない。足チェックシートを患者自身に記入してもらえば足病変の見落としを防ぐことができると思われる。
 チェックシートは患者の自記式で設問は大きく2つあり、足のしびれや痛み、こむら返りなどの自覚症状と、胼胝、発赤、角化、白癬など足の外観に関するものである。これに医師がHbA1cや罹病期間などのプロフィールを記入する。

 福田クリニックにおける結果では、実に78%の方が何らかの足の症状があった。爪白癬を含め白癬の合併が34%、足先のしびれ・痛みは32%、鷄眼・胼胝の合併は17%、足の異常感覚は13%など予想以上に足にトラブルをもつケースが多かった。
足の自覚症状はやはり罹病期間が長くなるほど、HbA1cが高いほど頻度は高くなり、特にこむら返りはHbA1c>9%で50%以上の患者で認められた。一方、白癬の有無は罹病期間や血糖コントロールとあまり関連はなかった。

 また、足白癬や胼胝などは内科で相談できないものと患者自身が思い込み、黙って市販薬などで素人療法をしていたが、チェックシートの回答を機に異常を主治医が発見、治療を開始できたケースも少なからずあり、調査は非常に有用であった。

 最後に、アンケートを回収すれば小野薬品がデータを集計・解析し簡単なパンフレットまで作成してくれるので、ぜひ先生方にもお勧めしたいと話を締めくくった。


 

糖尿病性神経障害 ―間違いのない診断をするために―

青森県立中央病院 神経内科 部長
弘前大学医学部 神経内科 臨床教授  
          馬場 正之 先生

 

 今回は糖尿病性多発神経障害(ポリニューロパチー)の主に臨床診断についての講演であり、最後に進行予防や対症療法にも触れられた。

 糖尿病の神経障害は1.対称性ポリニューロパチー(ポリニューロパチー)と2.非対称性ニューロパチー(モノニューロパチー)とがある。2は突然に起きる鈍痛や麻痺であるが、まれであり徐々に回復する予後良好なものである。糖尿病患者で問題になるのは1の対称性ポリニューロパチーであり、いつの間にか発症して悪化していき、10年後にはほぼ100%発症する。主に足に起きる病気で、臨床的回復が困難で生命予後にも影響するものである。その発症機序にはポリオール経路亢進などの代謝異常や神経虚血など、多因子が関わって発症すると推定されているが、まだ何が起こっているのかよく分かっていないブラックボックスである。高血糖にさらされていると緩徐に進行して最終的には神経がなくなっていく神経変性疾患であり、予防が重要である。その診断に特異的な検査は見つかっておらず、問診から自覚症状だけで診断がつくのは糖尿病神経障害を有する患者のうち25%くらいで、腱反射などの理学的所見を加えると50%、電気生理学的検査を行うと100%診断がつく。

 問診のポイントとして、糖尿病の症状は、@左右対称性:片側のしびれの場合は腰仙椎変形やヘルニアなどを疑うA下肢優位性:上肢よりも下肢の症状が強い。神経は長いものから侵されるので、手よりも足が先に侵され膝蓋腱反射よりもアキレス腱反射が先に低下するB感覚障害優位性:運動神経よりも感覚神経が優位に侵される。運動神経は2割残っていれば残っている神経が筋肉を再支配するので、8割の神経が侵されるまでは症状が出ない。脱力や筋萎縮が起きるときには末期に近い状態である。それに対して感覚神経は減っていけば減っていくほど感覚麻痺が起きる。自律神経も運動神経と同じく残っている神経が2,3割になるまでは感受性を上げることで何とか動く。明らかな起立性低血圧が起きるときにはかなり自律神経が減っている。

 診察のポイントとして1.アキレス腱反射2.振動覚3.痛覚(ピンプリック検査)を調べ4.足の視診(足の外観の変化、皮膚乾燥、爪の変化、筋萎縮、潰瘍など)を行う。アキレス腱反射の減弱を見ることは実際には難しく、膝立姿勢を行い壁に手をつき、肘と背筋を伸ばすと同時に腱反射を見るという腱反射増強法を用いると見やすくなる。またその検査には良いハンマーを使う重要性も説明された。振動覚はよく知られているとおり、128Hz音叉を用いて振動が分からなくなるまでの秒数を計って評価する。音叉をたたく強さで結果に大きな差はでない。痛覚を見ることも重要である。痛覚は細い神経で、糖尿病の前段階である耐糖能障害の段階から痛み始め、糖尿病と診断されたときにはすでに壊れ始めている。竹串を使って、とがっている方とその反対の方とで刺激してみて「チクチク」と「トントン」と区別がつくかどうかを見ることで痛覚の低下を見る。足の視診であるが、糖尿病患者は足に汗をかかないため乾燥し、角化を起こしてくる。 また足の運動神経の障害が起きてくると、まず短趾伸筋萎縮がみられる。足を背屈させると盛り上がる部分が糖尿病の人では盛り上がらないことが多いのでこの部分の変化を見る。症状が進むと足趾背屈力が低下し、さらには足関節の背屈力が低下し、かかと立ちが不可能になる。

 最後の質疑応答では治療に少し触れられた。治療として、厳密な血糖コントロールが有効であるが完全な血糖コントロールは難しい。神経障害の進展抑制にはアルドース還元酵素阻害剤(ARI)のみがエビデンスが有り、ARIを使用すると再生神経がよく成熟したというデータもある。有痛性神経障害は、半年(長い人は1年)したら良くなる。それまでの治療としては3環系抗うつ剤や抗けいれん剤、メジコンも痛覚の抑制に効果がある。単剤ではなく、組み合わせて効果をみながら薬剤を決めていくこととなる。

 さていうまでもなく糖尿病の3大合併症は網膜症、腎症、神経障害である。網膜症の評価は眼底を見ることになるので眼科との連携で行う。腎症は尿中アルブミンの測定により早期腎症が診断され、尿タンパク、血清クレアチニンから病期を診断することができる。しかし神経障害は、外来診療においてしびれの有無などの問診、振動覚の検査を行って神経障害の有無は診断をしても、腎症のようなはっきりとした病期分類もなく、内科医としては取っつきにくいものであった。またアキレス腱反射の検査を行っても、本当に反射が減弱しているのか、自分の手技の未熟さによるものなのかはっきりしなかった。

 今回の馬場先生の講演では、アキレス腱反射の手技の実際、竹串を用いた痛覚の検査法などを、動画もたくさん交えて説明があった。今回教えていただいた手技を用いて、これからは糖尿病患者の足をしっかり診て神経障害を診断し、講演のさわりで先生が話された「脳梗塞で運ばれてきた患者さんでも足を診れば糖尿病の患者だと分かる」というレベルを目指したい。
                                                (濱田 洋一)



生活習慣病・糖尿病の合併症抑制に向けての戦略研究
   −DOIT2の結果を踏まえて−

国立大学法人 富山大学附属病院 
      病院長 小林 正 先生

 

 小林先生は、現在、富山大学附属病院の病院長として極めて多忙な毎日を送られているが、外来にて患者さんを診察する時間が一番充実していると言われ、またお若い時代には8年以上米国留学されインターン、レジデントなど臨床トレーニングを積み米国医師免許も取得されるなど、研究だけでなく実地臨床を大切にされている先生である。この小林先生から国民病ともいえる糖尿病について最近のデータや先生が統括されている糖尿病の戦略的研究「J−DOIT2」糖尿病の治療中断の阻止研究についてご講演をいただいた。

 糖尿病人口は世界中で増えており、特にアジアでその増加率は著しい。本邦でも2008年現在1000万人近くの糖尿病患者がいると考えられ、数年前に比べ200万人以上増えているという。このうち医療機関に受診しているのは50%程度であり、8割はかかりつけ医が診ている。
 
 先生は糖尿病治療について数年前のデータはあるが日米の比較を示されたが、それによると実に4分の1の費用で2倍良好な糖尿病コントロールを達成しているという結果である。この理由のひとつは日本の誇る皆保険制度に支えられた毎月の通院があると考えられる。米国の通院頻度は3〜6ヵ月であり、それでは良好なコントロールを維持するのは難しい。かかりつけ医の優秀性もある。例えばアンケートによると30%以上の診療所でインスリン治療が可能であるという。

 日本における糖尿病治療の実態をさらに詳しく調査するため小林先生が中心となりITを活用して日本全国の23病院と49診療所が参加し、JDDMという研究を行っている。

 治療の内訳は食事・運動療法単独治療27%、経口薬治療51%、インスリン治療13%、インスリン・経口薬併用療法9%であり、インスリンの内訳は36%アナログ、50%ヒト、14%アナログ+ヒトであった。HbA1c<6.5%以下の率は全体で34.1%、食事療法60%、経口薬28.2%、インスリン20%、インスリン+経口薬13.6%と治療が複雑になるほど良好なコントロールの達成は難しい。
 また包括的なコントロール達成を詳しく米国のデータと比較してみるとHbA1c、血圧、TCいずれも日本が達成率が高く、また全てを満たしている割合比較は7%vs13%であった。

 以上は治療されている糖尿病患者のデータであるが、冒頭でも述べたように糖尿病のような自覚症状がなく患者が疾患を真剣にとらえず受療率は50%程度である。実に推定でも500万人は放置または治療中断をし糖尿病治療を受けていないということが問題である。その間に高血糖が持続、さまざまな血管合併症が進行し、合併症がかなり進行した状態で発見され、患者自身のQOLも著しく低下し、医療経済的にも莫大な損失となる。これらに対して平成17年から厚生労働省の『糖尿病予防のための戦略研究 J−DOIT(Japan Diebetes outcome investigation trial)』がスタートした。

 J−DOITは3つに分けられており、小林先生が統括しているのはJ−DOIT2「かかりつけ医による2型糖尿病発症予防のための介入試験」である。これは受診中断率を下げることを目標とした、かかりつけ医に対する診療達成目標ITシステム等による糖尿病診療支援を実施し、その有効性を検証する大規模研究である。まず人口20万程度の4医師会でパイロットスタディが行われ、昨年結果が明らかになった。

 スタディは診療支援と診療達成目標ITシステムによる糖尿病診療支援を共に実施する群(診療支援群)と、両支援のいずれも実施しない群(通常診療群)を比較検討した。診療支援サービスセンターは、かかりつけ医の指示に従って患者に対する食事療法および、運動療法に関する支援サービス(糖尿病療養指導士が電話で応答)と受診促進支援サービス(主に受診予約日前日等に電話で受診を促す)を提供し、診療達成目標ITシステムは、診療達成目標調査に基づいた診療状況の情報を、かかりつけ医および被験者に対してフィードバックする。なお受診予定日から2ヵ月間受診しない場合を治療中断と定義した。

 糖尿病治療の原則は3ヵ月間HbA1cが8%以上の場合は必ず何らかのアクションを起こすというものである。具体的には経口薬治療で3ヵ月間8%以上の場合は、食餌運動療法の見直しはもちろん経口薬の 追加、変更やさらにインスリン治療を考慮することとした。介入試験の結果、中断率は支援群で5.8%、通常群で7.2%と支援群で中断率が低かった。中断しやすい因子は初診時HbA1cの高値、年齢の若さ、男性であった。HbA1c自体は両群で差がなかったが、糖尿病患者の食事や運動に関する生活行動の変化は支援群で大きく改善した。通常群でも改善は認められ積極的な支援がなくともスタディに参加したということが糖尿病治療への意識を改善したものと思われる。
 
 いよいよ本研究が今秋にもスタートする。医師会として参加することで、市民も巻き込んだ地域ぐるみの糖尿病予防に対する盛り上がりが期待でき、ひいては糖尿病、合併症の予防へとつながると思われる。ぜひご参加いただきたいと小林先生は述べた。

 最後に、本来、国民の健康を守らねばならない厚生労働省の場当たり的な施策・愚策に苦言を呈された。このことは我々実地医家が日ごろから感じていた点とまさしく同じであり、会場からも期せず大きな拍手が起こった。
                                                 (福田 正博)