第17回中間法人大阪府内科医会医学会
高齢者糖尿病に焦点を当てての講演が
 
平成19年12月1日、大阪府医師会館に近畿大学医学部内分泌・代謝・糖尿病内科の池上博司教授をお迎えして、第17回中間法人大阪府内科医会医学会が開催された。
 昨年、本邦における75歳以上の人口が初めて全人口の10%を超えた。すでに65歳以上は2年前に20%を超えており、まさに世界一の長寿国である。一方で国連総会で糖尿病撲滅に関する国連決議が採択されるなど世界的に、特にアジア地域での増加が著しく、本邦も例外ではない。またこの4月からは75歳以上の後期高齢者医療制度がスタートするが、その制度下で高齢者の糖尿病をどのようにとらえ、どう対処していけばよいのかが大きな問題であると思われる。そこで今回の医学会では池上博司教授に「高齢者糖尿病」について、その病態の特徴や治療方針に壮年者と違いがあるのかなどをご講演いただいた。
高齢者糖尿病の治療

  近畿大学医学部内分泌・代謝・糖尿病内科
      教授   池上 博司 先生
 
 近大病院における通院・入院患者の調査では、ほぼ半数は65歳以上であり、糖尿病患者の高齢化も進んでいるという。大学病院という特殊性もあろうが65歳以上でも半数はインスリン療法であり、全国臨床糖尿病医会の調査では90歳以上でも2割弱はインスリン療法を行っているという。また糖尿病合併症の有病率も壮年者に比較しても決して少なくない。決して高齢者糖尿病は特殊なものはないということである。 
 高齢者糖尿病の初診時には、まず罹病期間の長さ、過去の血糖コントロールなど代謝状態、合併症の有無を精査することが大切である。特に高齢者では、初診時にすでに合併症が進行しているケースも多い。高血糖状態だけでは自覚症状が乏しく、糖尿病が発見された時にはすでに高血糖状態が長期間継続しており、網膜症などがかなり進行しているといったケースも珍しくない。関連病院の調査では、高齢者糖尿病の70%は青壮年期に発症に長い罹病期間を経て現在に至っているという。高齢者糖尿病ではこの過去の状況が重要であり、その善し悪しにより初診時の病態が多様となるのが特徴と言える。実際、高齢者糖尿病の合併症進行を10年間フォローしてみると、糖尿病合併症の進行は壮年者と高齢者でその差はなくやはり血糖コントロールが重要なファクターであることが明らかになった。 
 高齢者であっても血糖コントロールが甘い症例では合併症は進行しており、決して緩やかなコントロールでよいということはない。 それでは高齢者と壮年者ではどこが違うのか?それは平均余命、あとに残された時間である。 
 しかし平均余命が伸びており75歳だからもう良いということにはならない。女性の場合、平均余命は75歳の方で15年、85歳の方でも8年である。その間に適切なコントロールをしないと、その時点では合併症がなくても十分出現する時間的猶予がある。実際、新規透析導入のデータをみると、女性で76歳以上、男性で70歳以上のところに導入時年齢のピークが存在するという。高齢になるほど糖尿病の病態や合併症の状態など個人差が大きくなり全体として多様性が増加する。それらの多様な病態に対応して治療をしていく必要性が高まってきており、いわゆるテーラーメイド医療という概念ができたわけである。
 テーラーメイドというとすぐ遺伝子診断でということをイメージしがちであるが、そうではない。実は糖尿病そのものが多様性に富んだ疾患であり、病態に応じた医療というものを我々は構築してきたのである。高齢者の糖尿病治療の基本はやはり食事・運動療法である。これでコントロールが不十分な時に薬物療法を追加するといった形で、これは壮年者の場合と変わることはない。
 高齢者の薬物治療の際は5Sに心がける。 Simple:簡単な処方、Small  dose:少量より開始、Slow dose up
:ゆっくり増量、できればShort acting:短時間作用型の薬を中心にStop:不測の事態、副作用、不信な兆候がでれば速やかに中止 というものである。高齢者では潜在的な腎機能や肝機能の低下、多剤併用(ARBやイオン交換樹脂などインスリン感受性を増強作用をもつ)、また感染症などで簡単に食思不振となるなど摂取エネルギーが不安定といった特徴がある。現在でもSU薬はもっとも頻用されている糖尿病薬であるが、高齢者の特性を考慮しできるだけ少量からスタートすべきである。また薬剤選択の際には強力な長時間作用型のグリベンクラミドではなくマイルドなグリクラジドを少量からというのが望ましい。またSU薬に比べ作用が弱いことは否めないがグリニド系薬剤も高齢者に用いやすい。作用時間が短く各食直前に服用、食事が不規則な場合も食事を抜いたら薬剤服用もしないようにするので低血糖も少ない。
 インスリンについては超速効型インスリンアナログの食直前3回注射が食事時間、量が不安定になりがちな高齢者では望ましい。その場合もできるだけ3−3−3や4ー4−4単位など少量からシンプルに増量していけばよい。
 今までは高齢者糖尿病というと軽症、治療法もマイルドであり、血糖コントロールもほどほどでよいというイメージが強かったが講演を聞いて決してそうではないこと、患者さん個々の病状、予後に合わせ
て治療していく必要性を痛感した。  (福田 正博)