総会記念講演会
頭痛の診断と治療について
神経内科医の立場から 五十嵐久佳先生

 頭痛を主訴に我々診療所を受診される患者はさほど多くなく、本講演で取り上げられた片頭痛の頻度は低いと思いこんでいた。
 ご講演いただいた五十嵐先生によると最近の本邦における疫学データから慢性頭痛の有病率は4人に1人であり、なかでも片頭痛は800万人以上の人が有し予想以上に多いという。しかし多くの頭痛患者は頭痛により日常生活が阻害されQOLが低下しているにもかかわらず医師に相談せず市販薬で我慢をしているということある。
 また医療機関を受診された場合も片頭痛と診断がつくまでに10年もかかった例もしばしば見受けられ、頭痛患者へのアンケート調査では、医師の対応への不満も多いという。本講演を聴き、我々実地医家の方から、他のことで受診された患者さんに対しても頭痛の兆候を見逃さず積極的に頭痛の有無について問いかけ
ることも大切ではないかと痛感した。
 そのためにはまず頭痛の鑑別を的確に行う必要がある。頭痛は通常1次と2次に大別される。まず2次性頭痛は脳血管障害などによる頭痛で、我々が考えるほどには頻度は多くはないとのことであったが、見落とすと致命的であるので注意を要する。疑えば積極的にCT、MRIを速やかにオーダー、また専門施設に紹介する必要がある。また我々が心しないといけないことは、この2次性頭痛が否定できたところで、医療者が安堵しその後の対応が甘くなってしますことである。頭痛の診療はここからである。
 一次性頭痛の多くは実は日常生活に支障をきたす片頭痛であるという。我々のイメージする片頭痛は通常、光過敏などの前兆があり,片側性,拍動性の強い頭痛というものであるが、実際はそのような症例よりも前兆を伴わない慢性片頭痛の方が多いという。片頭痛患者の75%は肩こりなども随伴し両側性の場合もあり、筋緊張性頭痛と誤診されるものも多い。実に片頭痛の8割は筋緊張性頭痛とみなされているという。       前兆のない片頭痛の診断基準は以下のとおりである。
  A . B 〜 D を満たす頭痛発作が 5 回以上ある
   B . 頭痛の持続時間は 4 〜 72 時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
   C . 頭痛は以下の特徴の少なくとも 2 項目を満たす
     1 .片側性  2 .拍動性 3 .中等度〜重度の頭痛
    4 .日常的な動作(歩行や階段昇降などの)により頭痛が増悪する,
      あるいは頭痛のために日常 的な動作を避ける
   D . 頭痛発作中に少なくとも以下の 1 項目を満たす
      1 .悪心または嘔吐(あるいはその両方)
      2 .光過敏および音過敏  
   E .その他の疾患によらない

 また診察室では頭痛学会が作成した頭痛の問診票を使うと便利である。

片頭痛の診断がつけば治療である。 軽症のものはNSAID、エルゴタミンでもコントロールは可能であるが、トリプタン製剤による治療が中心となる。本薬剤は注射薬で10分、経口薬で30分で効果がでる。使用のタイミングも大切であるが、今までは我慢できなくなってから服用というパターンが多かったが、より早期に服用したほうが患者満足度が高い。そのためにはそのタイミングをつかんでもらうために患者本人に頭痛ダイアリーをつけてもらうことも有用である。発作が頻回であり発作時の薬剤が効かない、頭痛への不安が強い場合は予防的治療を考える。その際は塩酸ロメリジンファーストチョイスである。
最後に薬物乱用頭痛に気をつける必要があると強調された。アスピリン製剤などの鎮痛薬を1T日/月以上、エルゴタミンやトリプタン製剤を10日/月以上服用している場合はその可能性が強い。原因薬剤の服用中止により1〜6ヶ月間は70%ほどの症例で改善が得られるが再び薬剤乱用に陥る場合も少なくなく、日頃からエルゴタミン製剤,鎮痛薬,トリプタン系薬剤などの使用が頻回とならないよう指導することが必要であるとのことであった。


福田正博

脳神経外科医の立場から 間中信也先生

先生は東京大学脳神経外科学助教授、帝京大学市原病院教授を経て郷里の小田原でご開業をされている。講演をうかがって、先生のわかりやすい話し方に感心した。我々臨床家は、患者にとってわかりやすい説明をしなければならない義務を負うが、時に専門用語を使用してしまう時がある。また、専門用語を使わずに説明を行うことが難しい場合がある事も経験している。間中先生はきっと、常日頃から相手が理解できているかどうか確認をしながら説明をする努力を積み重ねておられるであろう。見習うべき心がけである。
 さて、一般臨床医に頭痛を主訴に来院する患者は、わずか3%程だとのこと。まず、頭痛は1次性頭痛と2次性頭痛に大きく分かれる。1次性頭痛とは、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などである。これら頭痛の詳細は五十嵐久佳先生から詳細な説明が行われたので参照されたい。
 2次性頭痛は別の疾患の症候として頭痛を来たしているもので、かぜ症候群のように外来治療でよいものと、入院治療が必要な頭痛(先生は悪玉頭痛と名づけておられる)に分かれる。頭痛患者のうち悪玉2次性頭痛は500人に一人と思ったより少ない。1次性頭痛と2次性頭痛を鑑別するには、Dodickが第14回片頭痛研究財団国際シンポジウムで提唱したSNOOP(全身性の症状、癌など全身性疾患、神経学的症状、突然の発症、40歳以上の発症、パターンの変化のそれぞれの頭文字)の有無に沿って行うのが良い。

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次性頭痛の中でも、見逃すと命にかかわり、しかも最も診断をつけるのが困難なものにクモ膜下出血がある。その誤診率は実に20%にものぼり、片頭痛、高血圧、カゼなどの診断を受けている。クモ膜下出血の誤診は患者の生命にとって危険であるのみならず、私たち家庭医が訴訟に巻き込まれることの最も多い疾患の一つである。少しでも正確に診断が行えるようにしたい。しかし、プライマリケア医向けに蜘網膜下出血の正しい診断法について言及した書物は余り見た事が無い。間中先生は頭痛患者や、クモ膜下出血患者を詳細に分析され、危険性の高い頭痛を鑑別する最も有用な質問が『その頭痛が増悪してますか?』だという結論を見出された。くも膜下出血のうち、雷鳴頭痛(突然発症する激しい頭痛)で発症するものが63%あるが、軽症の頭痛から激しい頭痛に増悪するものが14%、頭痛のないものが8%も存在する。
 医師は自分に経験のない訴えを聞くと、つい精神的な問題と考えがちである。乏しい情報を元に、安易に診断をつけがちでもある。私なども患者さんに『思い過ごしですよ』、『考え過ぎですよ』、『精神的な事ですよ』などの言葉で片付けてしまう事がある。臨床内科医がクモ膜下出血を診断する機会は、めったにないようだが、それだけに誤診の可能性も高くなるのではと心配する。
 先生の講演をうかがって、頭痛を訴える患者さんには必ず『その頭痛は増悪してますか?』と質問をするようにし、『精神的なことですよ。』とか、『考えすぎですよ。』などの表現を避け、さらに、断定的な診断をなるべく行わないように心がけようと思った。
 最後に先生の人気ホームページ『頭痛大学』のURLをお知らせする。

http://homepage2.nifty.com/uoh/

西谷昌也