大阪府内科医会法人化記念講演会
「動脈硬化の新しいメカニズム−脂肪細胞の意義」


松澤佑次住友病院病院長

 2001年のWHOの死亡統計によると心筋梗塞・脳梗塞など動脈硬化性疾患による死亡率は30%を超えている。
 これらは突然発症し、死亡に至らずとも寝たきり状態を惹起するため家族や社会経済的に大きな損害を与えることから、政府も脳・心血管障害の危険因子である生活習慣病の対策を大きな課題としている。
 動脈硬化の危険因子としては、高血糖、高血圧、脂質異常の重積が大きな問題であり、従来はこのような病態をシンドロームXや死の四重奏と呼び、インスリン抵抗性がキーであると考えられてきたが、松澤先生らは80年代末から脂肪細胞、特に内臓脂肪が重要な役割を演じていると提唱されてきた。90年代前半からの脂肪細胞のゲノム解析により、脂肪細胞はエネルギーの貯蔵庫というだけでなく多彩な生理活性物質、いわゆるアディポサイトカインを分泌する内分泌細胞であることが明らかにされた。これらの物質の多くはインスリン抵抗性を引き起こし、動脈硬化を促進する攻撃型の物質であるが、これらの物質の中に攻撃的な作用に対し防御的に働くアディポネクチンという物質が発見された。このアディポネクチンが高いほどインスリン感受性は高くなり、逆に低いと血圧が高いことや、またアディポネクチンの低い人では心血管障害のリスクが2倍に、アディポネクチンが高い人では心筋梗塞による死亡が30%少ないという報告がある。また各危険因子を介さず、直接動脈硬化に対し防御的に働く。さらに癌に対しても防御的効果があるという報告もある。この動脈硬化を予防するアディポネクチンは脂肪細胞から分泌されているが、内臓脂肪量が増加すると他のアディポサイトカインと違い、内臓脂肪量に反比例して分泌が低下し血中濃度が下がることが知られている。内臓脂肪量が増加すると攻撃因子が増加する一方で、防御因子が減少し、糖尿病、高脂血症、高血圧が惹起され、一層、動脈硬化が進行しやすくなるわけである。メタボリックシンドロームは生活習慣の偏りが問題である。特に運動が重要であるが、その理由は、運動により内臓脂肪を減らすことにある。糖尿病や高脂血症、高血圧だけを薬で治療しても十分ではなく内臓脂肪を減らすことが大事である。