「臨床内科医における糖尿病治療薬の使い分け」
 
  −大内会スタディの結果をふまえて

 
               大阪府内科医会 理事 福田正博
 
 
  現在、本邦における糖尿病人口は1620万人(予備軍を含む)に達し、治療法の進歩にもかかわらず合併症による失明や腎不全は増加し続けている。最近で は従来日本人に多かったインスリン分泌低下型に加えて、欧米型のインスリン抵抗性型のメタボリックシンドロームの一病態としての糖尿病も増加している。
  この多様化した糖尿病の病態を把握した上で個々の患者に対して適切な治療法を選択することが肝要である。最近、新しいインスリン分泌
促進薬、速効型インスリン分泌促進薬、インスリン抵抗性改善薬、糖吸収遅延薬など次々と上市され多様な病態に対応できるようになったが、一方で治療薬の選択に迷うケースも多くなってきた。
 治療法の適応を考える際にはインスリン分泌能とインスリン抵抗性の多寡を把握することが肝要であり、前者の指標にはグルカゴン負荷試験や24時間Cペプチド排泄量、後者の指標にはHOMA-R、肥満度が頻用されるが、従来の指標は実地臨床の場では使いづらいものが多かった。そこで昨年、大阪府内科医会々員のご協力を戴き大内会スタディとして、「日常臨床において簡便に測定できるインスリン分泌能の指標としての1回尿Cペプチド/クレアチニン値(U- CPR(μg/g・Cr))の有用性」を検討した。 700例を越える血糖良好な症例の治療法とU-CPRの多寡を解析した結果、以下の指標が得られた。 
 U-CPRが20μg/gCr未満ではインスリン療法の適応となるケースが多い。
 20μg/gCr以上では経口糖尿病薬の適応となるが50μg/gCrまでは主にSU剤治療が中心となり、やや高値の場合インスリン分泌促進作用が比較的マイルドなグリミクロンやアマリール、やや低値の場合はより強力なオイグルコン(ダオニール)の投与を考慮する。 
 60μg/gCr以上の場合、肥満傾向が強ければ(BMI 22)インスリン抵抗性が増大していると考えられ、インスリン感受性改善薬のビグアナイド(BG)系のメルビン、ジベトスBやグリタゾン系のアクトスがよい適応になり、それ以外ではαグルコシダーゼ阻害薬のベイスン、グルコバイまたは、速効型インスリン分泌促進薬のグリニド系のファスティック(スターシス)、グルファストの投与が効果的である。
 さらU-CPR値を初めとした初診時の各臨床DATAからその患者に適した治療を決定できるか判別分析したところ、治療法の選択には初診時のU-CPRの多寡が最大の寄与因子で、さらに初診時未治療かすでに経口薬やインスリンが投与されているか否か、BMI、罹病期間、HbA1cの順で寄与して  いるという結果が得られた。
 これらの結果から上記の使い分けを補足すると、SU薬はすでに経口薬が投与されている非肥満の罹病期間のやや長い症例、αGI・グリニド系は罹病期間が短く、未治療例がよい適応になる。また、治療開始当初は有効であった薬剤(特にSU薬)がその後無効となる場合もしばしば経験する(二次無効)。具体的にはグリベンクラミド5mg/日投与でもHbA1c8%以上を示すような症例である。この場合U-CPR<20であればインスリン治療を考慮すべきである。 U-CPRが比較的保たれている場合は経口薬の追加投与してみる。その際、糖尿病非専門医はαGIを併用する傾向があるのに対し専門医はBGを選択することが多い。BG併用のHbA1c改善率はαGIの場合に比し2倍近いというエビデンスも米国では報告されている。
 BGは過去に乳酸アシドーシスの頻発で一時使用されなかったが、現在市販されているメトフォルミンは乳酸アシドーシスの報告がほとんどない安全性の高い薬剤であり、近年インスリン改善薬として再評価され欧米ではずいぶんと使われるようになっている。肝硬変、アルコール中毒、腎機能低下例、手術や重症の感染症時などの禁忌例を除けばインスリン抵抗性のある肥満糖尿病患者などでは第一選択薬であり、また薬価も低くSU薬との併用も効果がある。
 
 
福田正博理事  平成16年度大阪医学大阪府医師会長賞 受賞
 
 昨年、大阪府医学雑誌に投稿された論文の中から最も優秀なものに送られる「大阪医学大阪府医師会長賞」として福田正博理事が筆頭となって発表した「早期糖尿病性腎症進展阻止に対するアンジオテンシンレセプター拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の効果について」(大阪医学37巻3号:2003に掲載)が選ばれた。
 これは高血圧薬剤のうち、アンジオテンシン2拮抗薬(ARB)が他の薬剤(カルシウム拮抗薬やACE阻害薬)に比較して糖尿病性腎症の進行をより抑えることができるということを、診療所通院中の糖尿病患者さんを対象に確かめた研究である。