大阪府内科医会学術講演会

心疾患の連続性を断つ

―標的臓器保護とRA系の関与−

612日ホテルヒルトン大阪で、上記表題でアナライザーパネルディスカッションが行われた。大阪府内科医会の山家健一会長から、われわれ医療者を取り巻く風潮がEBM全盛の様相を呈しているが、その思想が誤って暴走すると、医師の裁量権を剥奪する危険性を含んでいるのではないかと問うことを感ずるとの挨拶があった。アナライザーパネルディスカッションによる、講演会は、聴衆の認識をリアルタイムに演者の先生にフィードバックすることができ、それが再び私たち聴衆に還元され、ためになる講演の内容が租借・整理されて脳内に記憶される、すばらしい講演システムであると感じた。 

症例報告1:心筋梗塞などの臓器障害を合併する高血圧症の一例 (中尾正俊先生)

症例は76歳男性、主訴は高血圧と胸部不快感、 H5年に心筋梗塞(側壁梗塞、左室機能低下)、H8年に右浅大腿動脈閉塞でPTA施行、二トロールR60mgとロプレソール錠20mgによる治療を開始、当初、血圧は120-140/70mmHgと良好であったが、現在は160/70mmHgに上昇している。このようなケースでも血圧は下げれば下げるほどよいか?いう質問に対し回答は「はい」35.6%、「いいえ」28%、「どちらともいえない」36%とやや慎重な意見が多いようであった。最近の大規模試験の結果から厳格な降圧療法は心血管合併症の発症や進展を抑制(脳卒中:35-40%、心筋梗塞:20−25%、心不全:50%)すること、さらに臓器障害をもつ高血圧患者に対しても積極的に降圧することの有用性も示されている。 本例ではARB薬であるディオバン錠40rの追加により再び120/70mmHgに改善、その後130-140/80mmHgにコントロールされ、日常生活労作時症状などの心不全兆候もなくなりQOLは良好となっている。本例では左心機能低下がありβ遮断薬を使用しているが、これにARB薬を併用することは許されるか?という質問に対し、69%が「よい」という肯定的な意見であった。 これについては最近発表されたCHARM STUDYにてARB薬が慢性心不全患者の心血管疾患死や心不全悪化を抑えること、そしてβ遮断薬との併用の有用性が示されている。また、高齢者を治療する際の注意点として、自覚症状がなくても心筋虚血が進行し心不全が潜在している可能性も高いケースも多い。そのような場合の有用な指標としてBNPがある。これを測定し100以上であれば降圧剤としてはARB薬とβ遮断薬を併用するのがよく、また早期に循環器科に紹介するとよい。

症例報告2:メタボリックシンドロームの一例 (福田正博先生)

症例は54歳、男性 主訴は糖尿病、高血圧、肥満、罹病期間8年、 初診時所見はBM25.9 BP166/95mmHg FBG151 HbA1c7.8 HOMA-R 4.2 TC 264 TG230 微量Alb/Cr 80安静時心電図::正常、眼底:正常、喫煙・飲酒(+) この症例で今後起こりうる問題点はどちらが重要であるかとの問いに細小血管障害51%、心血管イベント49%と意見が分かれた。この症例では動脈硬化症のリスクが集積しており心血管イベントに留意する必要性が高いと考えられる。本例はグリメピリド1mg、バルサルタン80mg等で治療を開始、4ヶ月後にはHbA1c6.5%、FBG120 食後BG205、BP145/90に改善した。さらにHbA1cか血圧のどちらを下げるかとの質問には72%が「血圧」と回答、糖尿病における降圧治療の有用性はよく認知されていた。 UKPDSによると心筋
梗塞発症率はHbA1c7%以下ではほぼ横ばいとなるが、収縮期血圧が低いほど減少している。ちなみに血圧を10mmHg下げると11%減少している。また降圧薬の種別ではARB薬やACE阻害薬が心血管障害の発症阻止により有用であるとする報告が多く、ガイドラインでも第一選択薬としてARB薬またはACE阻害薬を推奨しており、降圧が不十分な場合はサイアザイド、CA拮抗薬を併用しつつBP130/80以下を目標としている。本例
でもサイアザイドを追加し136/88に、またαグルコシダーゼ阻害薬を追加し食後BGを180とし現在に至っている。 軽症糖尿病や耐糖能障害においては食後高血糖が動脈硬化を促進するとが大規模調査で明らかになっており、食後血糖140以下を目標としたい。このようにリスクの集積した糖尿病では血圧、食後血糖にも留意しながら治療計画を立てることが望まれる。


安成 憲一 先生    (大阪市立大学 循環器病態内科学 講師)

心肥大と降圧薬

高血圧患者の治療において最も大切なものはとの問いに、フロアの先生方の回答は@血圧を低下させる。79%、Aレニン・アンギオテンシン系の阻害、10%であった。HOT studyALLHAT studyにおいて、血圧は下げれば下げるほどよいというevidenceが得られている。では、降圧剤は何がいいのであろうか。合併症がある場合はどうでしょうか。降圧は最大の防御であるといいながら、合併症を伴う場合には降圧薬の使用に制限を設けている。たとえば、心不全や心筋梗塞後の患者では、カルシウム拮抗薬が使えないなど。では、心肥大がある患者さんにおいては大切なものは、との問いに、@血圧を低下させる、47%、Aレニン・アンギオテンシン系の阻害、48%と意見が分かれた。VALUE試験で、valsartanamlodipineとの大規模な比較がなされており、近々結果の発表があるが、演者は日本人の左心肥大のある患者において、酸化ストレスと血管内炎症(CRP)の両者とも、valsartanamlodipineと比較し、優位に低下させることを、臨床研究において証明された。酸化ストレスと血管内炎症(CRP)の上昇は左室重量係数の増大と正の相関があるため、valsartanが左心肥大を優位に改善することをお示しになった。valsartanは血管内の抗炎症作用をもち、それが左室重量係数を下げる。降圧とともにレニン-アンギオテンシン系を阻害することは、血圧を低下させるとともに、左室肥大を予防・改善させると結ばれた。

  泰清 先生    (関西医科大学 第2内科 循環器・腎・内分泌代謝科)

腎不全と降圧薬

現在、わが国の慢性透析患者の現況は2001年透析人口20万人強で、毎年約13,000人づつ増加しており、年間約1兆円の医療費を要している。さらに、透析導入後の生命予後も決して良くなく、糖尿病性腎症の患者では5年生存率約50%、慢性糸球体腎炎でも10年生存率は約半数である。慢性腎疾患の腎機能低下を早める因子に「高血圧」以外に、「タンパク尿」がある(フロアの正答率94%)。日本本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインでは、腎機能保持のための目標血圧は130/85mmHg 未満であり、1日尿蛋白1g以上の場合はさらに厳格に125/75mmHg 未満を目標としている。(1日尿蛋白は、以下の式で求める。1日タンパク尿=尿中タンパク尿(mg/dl/尿中クレアチニン(mg/dl))。MARVAL Studyにおいて amlodipineと比較し、valsartanは有意に尿中アルブミンを有意に低下させるという結果が出ている。腎機能低下そのものが、心血管危険因子となるでしょうか?の問いに、@はいと回答した先生は85%であった。何故、腎機能障害が心血管危険因子となる理由としては、腎障害早期からの交感神経系の亢進、酸化ストレス、微小炎症(microinflammation)の継続、などなどがあげられる。慢性腎疾患における心血管イベント抑制の方略として、ACE阻害薬(ないしARB)とスタチンの使用徹底化、冠動脈インターベンション適応症例のスクリーニング、が重要である。心血管イベントにおける慢性腎疾患の重要性として、末期腎不全は、総人口中0.1%とわずかだが、GFR3060ml/minの人は6%も存在する。かつて、糖尿病がそう言われだした時の様に、GFRの低下が心血管イベントの危険因子と、まず臨床医家に認識されるべきであると結ばれた。

南都 伸介 先生    (関西労災病院 循環器科 部長)

心筋梗塞後二次予防と降圧薬

従来、心不全や心不全の治療に力点が置かれていたが、1979年のRentoropの治療以後、心筋梗塞の原因治療が可能となった。そして、ウロカイネース療法、PTCAを経て血栓除去の時代を迎えるようになった。さらに、ここ1-2年で、冠動脈の閉塞を除去しても、reperfusion injuryが起こるため、ただ、単に閉塞をした部位を治療するだけでは不完全であると考えられるようになり、遠位部に粥腫の内容物を流さないような装置が考案され、臨牀に用いられるようになって来た。その結果、急性期死亡が当初の30%から10%以下に救命率があがっている。ACE阻害薬は心筋梗塞二次予防ガイドラインでクラスI(手技・治療が有益・有用・有効であることに関して複数の多施設無作為介入臨床試験で証明されている。)に分類されている。フロアの先生方の回答では@クラス1と答えられたのは38%で、ばらつきガ多かったが、これはガイドラインの認識が不十分であるためと考えられた。ARBに関してはVALIANT studyvalsartancaptorilと同等との評価が下されている。急性心筋梗塞の30日死亡/1年死亡率は、98年:9/13.5%、03年:5/7.5%とここ、数年でも激減している。これは、治療方法と、二次予防の急速な進歩、双方の結果である。最後に二次予防にはACE,ARB,βブロッカー、抗血小板薬、スタチンの投与が有用と締めくくられた。

総括:大規模試験の成果・ガイドラインの記述をいかに日常臨床における個々の患者さんの治療に生かすか −新しいテーラーメイド医療への挑戦 モデュレーター:北風正史先生

本日の講演では心血管障害は高血圧、糖尿病という生活慣病との連続性があり、RA系はどのステージにも関与しているという様々なエビデンスが示されたが、これらの情報をどのように診療に生かすかが問題となる。 「個々の患者さんへの治療方法をどのようにして決めているか?」という質問に対して、ガイドライン41%、大規模試験のEBM32%、主治医の好みと経験:21%という回答が得られた。そのガイドラインであ
るがどのような根拠で策定されたのか? 米国の高血圧治療ガイドラインを検討してみると、まずBPは120/80未満を正常血圧としそれ以上では治療を開始すべきとしている。この根拠は収縮期血圧120から10あがる毎に死亡率が上昇するという疫学調査の結果による。これは高血圧患者を治療により血圧を10下げたらどうなったかというものではなく、疫学調査と薬剤介入試験の結果とは同一に論じることはできない。さらにガイドラインには複数の大規模多施設臨床試験の結果が盛り込まれるが、異なった母集団のもの、血圧の程度の異なるものが含まれている。また得られた結果が相反するものも含まれている。ガイドラインはこのような様々なエビデンスを専門家が討議し得られたコンセンサスベースドメディスンである。患者個人にあわせた最適な治療をするためには、我々がそれぞれ持っている過去の臨床経験(アート)と基礎研究や大規模研究の結果(サイエンス)であるガイドラインとを転結し治療法を決定することが大切である、いわゆるテーラーメイド医療である。最近注目されている手法にデータマイニングがある。これはマーケッティングの世界でよく使われる、多量のデータを集積し、そのなかから部分的傾向知識を抽出する手法である。様々な多数の高血圧患者の臨床像、使用している降圧剤や併用薬、心機能などのデータを登録、そこからどのような患者像と薬剤の組み合わせの場合に良好な治療効果が得られているかというもの解析可能となる。テーラーメイド医療を進めていく上で有用であると期待されている。

今回の記念講演会は初めての試みとしてアナライザーパネルディスカッションという聴衆参加型の形式で行われた。これは参加者の机に回答用のリモコンが配布され、講演者の問いかける質問にこのリモコンで回答をするとその回答は瞬時に集計されスライドで表示されるシステムである。今回は多くの先生に回答していただきいつも以上に盛り上がった講演会であった。